この街に暮らす

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この街に暮らす

アートに染まる、天満橋

大川に吹く、芸術の風

 大阪中心部を流れる大川。その上空に架けられた浪華(なにわ)三大橋の一つが天満橋だ。北岸には、緑のオアシスに恵まれた南天満公園、南岸には、きれいに整備された八軒家浜の船着場。江戸時代、京都からの三十石船がひしめいた岸辺は、いまや水都めぐりの拠点として華やいでいる。
 大川が生み出したのは、賑わいだけではない。天満橋界隈は、多くのクリエイターたちが集う「ものづくりの発信地」。梅田からも近いこの地には、大手新聞社やテレビ局が拠点を置き、それを取り巻くように出版社、デザイナー、カメラマンたちが集まった。
 東京への一極集中が進む中、天満橋にオフィスを構えるクリエイターは減ったが、大川河畔に根付いた芸術の魂は生き続ける。
それはやがて若い世代に受け継がれ、新時代のアートのカタチを刻む。

大川

天満橋から大川を望む。左側には、新装した八軒家浜の船着場、先に見えるのは、バラ園を有する中之島。 10月には、大川沿いの地下を走る京阪「中之島線」が開通し、街はますます賑わう。


世界が注目したビル。

 16年前、南天満公園の北に、オブジェのような建物がにょきっと姿を現した。その建物の名は「風の万華鏡」。このビルが竣工したとき、世界のアート界は騒然となった。 20世紀を代表する国際的な造形作家・新宮晋が、建物を造った。それも大阪の名も知らぬ出版社のビルを。驚きを持って迎えられた「風の万華鏡」はまたたく間に話題となり、各国のデザイナーや財界人がこぞって見学に訪れた。関西国際空港を設計した建築家、レンゾ・ピアノは、「合理性と創造性がマッチングした極めてまれな成功例」と絶賛したという。日本のメディアを独占し、イタリアの雑誌にも紹介されたビルは、多くのアーティストの創造性をかき立て、刺激した。

小さな出版社の大きな挑戦。

 「風の万華鏡」の持ち主は、創業30年の出版社、ブレーンセンター。 奈良県初のタウン誌「マイ奈良」を皮切りに、「残さなければならない本を作る」という信念のもと、個性的な本をコツコツと世に送り出している。
 「下町から世界一を発信する、そんな本社ビルを作りたい」。ゼロからブレーンセンターを築いた稲田紀男社長は、新宮氏に頼みこんだ。天満橋は、稲田さんが敬愛する大塩平八郎が、市民の自立を掲げて蜂起した場所。この地に残る独立精神と稲田さんの思いに魅せられた新宮氏は、大川の風を受けてクルクルと回る立体を螺旋階段に仕掛け、建物全体を万華鏡に見立てた個性的なビルを完成させた。
  電気を使わず、天然の風のみで動く巨大な建築アート。その姿に、見る人は目を見張り、遊び心をくすぐられる。

風の万華鏡

風の彫刻家とも呼ばれる新宮晋が、たったひとつだけ手がけた建築物「風の万華鏡」。高い芸術性がありながら、 内部のオフィスは広々として快適
[ブレーンセンター]
大阪市北区天満4-2-13 ブレーンセンター「風の万華鏡」
TEL 06-6355-3300


「ブガジャ」復活にこめた次の時代へのメッセージ

 かつて関西のサブカルチャーを牽引した「プレイガイドジャーナル」に憧れ、この世界に入った稲田さん。このほど、20年前に廃刊となったこの雑誌を振り返る「プガジャの時代」を発刊した。限りなく素人に近かった若者が、ワイワイ言いながらページを創った1970年代。素人たち(面白いことをやりたいセンスのいいアマチュア)は、中島らも、笑福亭鶴瓶らを次々と世に羽ばたかせた。
「プレイガイドジャーナルは大物をたくさん輩出しましたが、編集者はみんな普通の青年だった。普通の人でも、こんなすごい雑誌を出せるのだということを、次世代に伝えたかった」。稲田さんの熱い思いは、本を手にした駆け出しクリエイターたちに受け継がれるだろう。

ブガジャの時代

メイド・イン・天満橋のバイオリンはいかが。

 太閤・秀吉の城下町、島町の坂に、ガラス張りのお店を見つけた。「カフェ?」と思いのぞくと、なんとバイオリン工房。「Liuteria BATO」と書かれたプレートがおしゃれだ。「外国の工房は、どこもこのくらいオープンですよ」と社長の馬戸修さんは笑う。
 バイオリン好きが高じてこの道に入り、楽器店の営業を経て店を構えるに至った馬戸さん。自分では作れないから、技術者が欲しいと思っていたとき、二人の息子がバイオリン職人の道を歩み始めた。有名マエストロに師事し、登竜門であるイタリアのコンクールでディプロマ(技術認定)も取得した、将来が楽しみな20代、30代の兄弟。美しいフォルムを求めて木を削る彼らを、父は目を細めて見守る。
 バイオリンの本場、イタリアのクレモナには、職人たちの工房が連なる。ここ天満橋にも、小さなバイオリン製作所をはじめ、アコーディオンやハープの専門店が点在する。「日本でも高品質な楽器が作れるんだ、ということを知ってほしい」。親子のバイオリンが、研ぎ澄まされた音色を世界に響かせている。

Liuteria BATO

[Liuteria BATO]
イタリアで修業した若手の職人が、黙々とバイオリンを製作する。試奏や見学は大歓迎。 店の奥ではバイオリン教室も開かれている
大阪市中央区島町2-1-5 TEL 06-6946-0316
11:00〜18:00(土曜日は17:00まで) 日曜・祝日休


街角のレトロギャラリーは夢の隠れ家。

 天満橋から、世界最長の天神橋筋商店街へ向かう途中、スクラッチタイルのレトロビル「フジハラビル」に出合う。斬新な筆づかいの壁画に、屋根から吊るされたスニーカーのデコレーション…。大正ロマン調の玄関をくぐると、そこはアートの国だ。
「若いアーティストたちが、作品を発表する場にしたくてね」と話すのは、オーナーの藤原英祐さん。亡くなった事業家の父からこのビルを受け継いだのは10年以上前。調味料メーカーの本社ビルだったものを、自力でコツコツと改修し、ギャラリーに造り替えた。
 芸術を志望する学生に、夢を与えたい。その一念で壁を塗り、レンガを積み、照明の配線を敷いた。自ら作ることで、成せば成るという姿勢を若手に伝えたかった。その甲斐あって、最近では日展の入選者が出たほか、フラメンコや演劇などの公演も開かれている。日常の中で、フレッシュなアートを味わえる「ありきたりでない空間」が、この街で息づく。

フジハラビル

[フジハラビル]
夜のフジハラビルは幻想的。窓際のスクリーンにオーケストラ演奏が映し出される日もある。入口では、マスコットである猫の置物がお出迎え
大阪市北区天神橋1-10-4 TEL 06-6351-6352休


伝統芸能をもっと身近に。

 谷町に近い中大江公園の南に、国の登録文化財に指定されている山本能楽堂がある。能といえば、男社会の厳しい規律に守られた世界だが、ここはOLや主婦までもが趣味やお稽古ごととして能を楽しめる、気軽な大人の遊び場だ。三代目・山本章弘さんが繰り出す企画は「まっちゃまちサロン」「上方伝統芸能ナイト」とどれもユニーク。4種類の上方伝統芸能がダイジェストで楽しめたり、初心者が能衣装を身につけ、舞台に上がるといった粋な趣向も人気の秘密。
サロンに参加したある外国人指揮者は、日本語もよく分からないのに、能の謡(うたい)を心から楽しんでみせたという。伝統芸能の香りが、天満橋から国境を越えて広がる。

山本能楽堂

[山本能楽堂]
本格的な能舞台があり、客席からわずか1メートルの距離で能を堪能できるのが特徴だ。抹茶とお菓子付きで鑑賞できる公演もあり
大阪市中央区徳井町1-3-6 TEL 06-6943-9454


プロデューサーは額縁屋さん

 大阪城に続く釣鐘町の通り沿いに、一軒のギャラリーがオープンした。可愛らしいカレンダーやポストカードでおなじみの書道家、安川眞慈氏の展示スペース兼、プロアマ問わず作品を発表できる市民ギャラリーだ。開いたのは、天満橋で70年を数える額縁店、天勇。「額縁をください」と訪れる芸術家の作品を、あちこちに紹介するうち、それをお披露目する所を作りたいと思うようになった。
 安川氏との出会いも、額縁を通して。人をなごませ、元気にさせる安川氏の書や絵をたくさんの人に見ていただけるようにと、開放感あふれるスペースに仕立てた。ときどき安川さん自身が訪ねてきては、訪問客とおしゃべりしたり、書のライブを展開したり。人と芸術を結ぶ場が、またひとつ天満橋に誕生した。

あーとスペース夢玄&慈風舎

[あーとスペース夢玄&慈風舎]
大阪市中央区釣鐘町1-6-2
TEL 06-4790-2626
11:00〜19:00 日曜・祝日休


食の芸術に、幸せを感じて

 アート見物に疲れたら、オーガニックな自然派ワインの品揃えが豊富なショップ「ワイン・グローリアス」のカウンタ―バーで、気分転換にキリリと冷えたワインを。パンチェッタやパルマ産プロシュートなどのおつまみと、イタリアワインの醸造元に魅せられ、この道に足を踏み入れたソムリエの辻功一さんが、テイスティングのお相手を務めてくれる。小売店なのにバーカウンターを設けたのは、自分もテイスティングを楽しめるから、と笑顔の辻さん。ワインにまつわる会話で花が咲く。

ワイン・グローリアス
[ワイン・グローリアス]
大阪市中央区大手通2-4-5 コーポ・プルミエール1F
TEL 06-4791-0808
10:30~21:00(土曜日は17:00まで) 日曜・祝日休
バーは平日のみ営業。17:30~20:30(LO)
 

 お腹がすいたら、大川沿いにあるフレンチレストラン「クゥー・ドゥ・フランス」で少し贅沢なランチ。「修業時代、パリのアパルトマンから見たセーヌ川と、大川は似ています」と言う山田猛料理長は、自らの足で素材を探し歩き、いいと思ったものだけを厳選する。バターや生クリームの使用を極力おさえ、食材本来の味を引き出した一皿には、料理長のこだわりと、フランスの心が添えられている。

クゥー・ドゥ・フランス
[クゥー・ドゥ・フランス]
大阪市北区天満1-5-2 トリシマオフィスワンビル 1F
TEL 06-4800-0588
11:30〜14:30(LO)/17:30〜21:30(LO) 無休
 

 締めくくりは、天満橋の風景を一望できるホテルバー「川面」で、暮れゆく空をながめながらお気に入りのカクテルを傾ける。シックなカラーで統一されたこの店は、デザイン会社直営の落ち着いた空間。一人客もよく訪れるという。誰に邪魔されることなく過ぎてゆく、至福のひととき。忙しさの中で忘れかけていた感性が、ゆっくりと蘇ってくる。

川面
[川面]
大阪市中央区天満橋京町1-1 大阪キャッスルホテル7F
TEL 06-4790-2400
17:00〜23:30 日曜休
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