ゆめひとくらし
HOME > ゆめひとくらし > 暮らしの上質時間 vol.25
お手玉がくれる優しい気持ちお手玉がくれる優しい気持ちお手玉がくれる優しい気持ち

つい1カ月ほど前から、お手玉の形をした「おじゃみ座布団」が我が家の一員となった。今まで使っていた座布団がイヤだったわけではないけれど、お稽古友達のひと言が決め手となって…。
「おじゃみ座布団を使いはじめたら、腰の痛みが随分と楽になったわよ」

かわいらしいけど座布団には見えないし、高さがあるので不安定。買う前は半信半疑だったけれど、実際に使ってみたら、驚くほど正座をするのが楽になって、硯に向かう時間も長くなっていた。「なんだ、その変な枕は」とからかっていた夫も、1週間後には「俺のも買っといて」だって。というわけで、我が家には今、おじゃみ座布団が2つになっている。

私は主に、自宅でお習字の練習をする時と食事の時にお世話になっている。心なしか腰の痛みも和らぎ、以前よりも字がうまく書けるようになった…と思う。稽古場用に、もう一つ買ってもいいかな。
夫はというと、おじゃみ座布団に座ってお酒を飲んだり、枕の代わりにしてごろ寝をしたり、家にいる時はほとんど一緒。

休日には縁側で、2人揃って庭を眺める機会までできた。娘が嫁に行ってから、2人でもてあましていた夫婦の時間。なんとなく楽しいものになってきた。

縁側にお団子とお茶を持ってきて、「2人でこうして、月見をするなんて何年ぶりだろうなぁ」と、夫は空を見上げた。

「そうねぇ。あの子が生まれる前じゃない?」と、私も大きな満月を見上げた。
「あのおてんば娘も、いよいよ母親だなぁ。どうりで俺たちも年を取るわけだ」
月明かりに照らされた夫の笑顔から、父親の表情が消えているように見えて、時間が止まればいいなとさえ思った。

その翌朝、夫は食事をしながら、何かを思いついたように「あいつ、今で何カ月だ?」と質問してきた。「そろそろ8カ月くらいじゃないかしら」と答えると、夫は「そうか」とうなずいて箸を置き、会社へ向かった。よく分からないけれど、夫はいたずらっ子のような顔をしていた。

娘から突然電話がかかってきたのは、それから1週間ほどが過ぎたある昼下がり。「ありがとう。あれ、すっごく楽! ちょうど、ああいうのが欲しいと思っていたのよね」と、まくしたてる娘に、私は思わず「ちょっと待って。なんの話?」と聞き返した。すると、娘からは「え? お母さんじゃないの。あのお手玉」という返事が返ってきた。あっ、やられた。
鼻先をツンと上げたいたずらっ子の夫が、頭の中でいつまでも笑っていた。


洛中高岡屋 京都市下京区五条通油小路東入ル  TEL 075-341-2251 「おじゃみ座布団」


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