


12月に入ったと思ったら、海外で暮らす友人からクリスマスカードが届いた。「ああ、もうこんな季節…」
カードはいつものように、食卓のそばのコーナーにピンナップする。くつろぐときや食事どき、視野のすみに入る。そして、夫がリタイアして以来、ともども毎日が日曜日の気楽さか、スケジュールが吹っ飛んでしまっているこちらの頭へ、お歳暮、クリスマス、季節のごあいさつ、大掃除、おせち用の買い出し…と数珠つなぎにある用事を思い起こさせてくれるのだ。と、こうして書き出せば大仕事のようだが、夫も私も勤めていた頃のことを思えば、一つ一つがささやかなもの。負担どころか、むしろ日々のアクセントになってくれる歓迎すべき小仕事ばかりだ。
そういえば、現役の頃は12月に入ると年賀状書きに追われたものだ。週末をつぶしてハガキの山と格闘して、目は疲れる肩は凝る。「ねぇ、パソコンという文明の利器があるんだから、そろそろ宛名書きをやめない?」ある年、そう提案してみたら、いつもはおだやかな夫が、突然顔を真っ赤にして怒り出した。「年に一回しかないのに、それくらい、ちゃんと手で書いて気持ちを伝えんと。気分よく旨い酒が飲めない」ん?気持ちを伝えたいのはわかるけど、落ちはそこ?
かくしてわが家は手書きを守っている。といっても今は差し出す枚数もしれている。そこで、去年からお決まりスタイルの年賀状をやめて、ちょっと上等なカードを送ることになった。きっかけは、テレビのニュースだった。歳末恒例の大歌舞伎、京都南座の「顔見世」が始まった、という話題に、夫がそわそわし始めた。(それきた!)「顔見世か…そういえば、にしんそばの季節やなぁ」というわけで、肝心の歌舞伎にご縁のない夫と私は、食い気に誘われて京都へ出かけた。
にしんそばで温まって、人けの少ない通りをたどりながら散歩がてら歩いていると、おしゃれなビルの一角に素敵なカードを置いているお店を見つけた。聞くと、約四百年前から続く唐紙の老舗のショップだそうで、とりどりの色の和紙に手刷りされた洗練された文様が目を奪う。手に取ると、端正な中に何ともいえない温もりがある。
「ね、年賀状をやめて、これを冬のあいさつカードにしない?」夫もうなずいた。 改めて宛名を書くと、ここ2、3年で遠方に移った友人知人が増えた。子ども一家の近くに引っ越した人。初めての土地で新しい仕事に就いた人。故郷で農園を始めた人。郊外からさらに奥まった地で陶芸に本腰を入れる人。
年賀状を兼ねたカードは、第二のスタートを祝い、声援を送る気持ちを込めて大晦日に投函する。これで一年の締めくくりに、夫婦で気分よく旨い酒が飲める。

唐長 四条烏丸京都市下京区烏丸通四条下ル水銀屋町620 COCON烏丸1F TEL075-353-5885

