にのって、軽快なマーチとマイクの声が聞こえてきた。近くの小学校で運動会の練習をしている。いつもの風景だけど、空がスカッと青さを増してきた。白い雲がぽっかりのどかに浮かんでいる。秋になると空が高く広く感じられるのはなぜだろう。毎年、決まって今頃になると同じことを思ってしまう。
ーパーから帰って野菜を冷蔵庫に移していると、夫がめざとく袋からサツマイモを取り出した。皮が赤くて細身のサツマイモは、普段は芋嫌い豆嫌いを主張する夫の数少ない例外だ。「おべんとうが食べたいなぁ」夫がポツリとつぶやいた。ふ〜ん、おべんとうか。いいなぁ、秋だし…。
お花見以来、出番がなかったお気に入りのおべんと箱が頭に浮かんだ。
「どっか、いきますか」そう声をかけると、夫の顔が輝いた。「車はやめて電車で行こうか」夫が提案する。「ん?」いいけど、どうして?「ふらっと行って、夕方はどこか知らない店でちょっと飲んで帰るのもいいかな…」なるほど、そうきましたか。 夫とお揃いで買ったおべんと箱は、秋田杉の曲げわっぱ。手にやさしくて温かい。杉の香りがして、少々腕前に難有りのおかずでも、グンと品格を上げてくれる魔法のおべんと箱なのだ。

は想像する。ふっくら炊いた白いごはん。私のは梅干しをひとつ埋め込み、夫のは間におかかをはさむ。卵焼きも別々。夫用は砂糖を入れて、銅の卵焼き器できちんと巻き上げる。私用は断然砂糖なし、フライパンでジャジャーッと広げたのを菜箸でまとめ、ふんわり不定形に焼き上げる。結婚当初はよく喧嘩をした卵焼きだけど、今はお互いの好みを尊重して、別々のスタイルに落ち着いた。

こに、夫のリクエストで定番となったサツマイモの甘煮が欠かせない。青みは万願寺唐辛子かな。たらこを中心部がしっとり感を残すようにあぶり焼きして、おかずの間にきゅっと押し込む。そうだ、牛肉とごぼう、実山椒で甘辛い有馬煮を作って添えよう。
夫の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
は人一倍、おべんとうに愛着がある。生家がお店をしていたので、子どもの頃のお弁当はご近所の寿司屋の海苔巻きと決まっていた。まだ結婚する前のこと、宝塚のファミリーランドや芦屋のロックガーデン、須磨で海水浴…デートはたいていおべんとう持参。プロポーズの動機の幾分かはおべんとうが占めていたのだと思う。今でもおべんとうを作るときは、珍しくキッチンに入って来ない。
フタを開けたときの「わっ」というサプライズがうれしいのだ。
「さて、どこへ行こうかな」夫はインターネットで目的地を探している。「秋らしい景色を見るのもいいよね」「ポンポン山もいいなぁ。高槻からバスに乗って…」「どれどれ」私も画面をのぞく。リタイアした夫との何げない二人暮らしに、遠足のわくわく。
お天気の週間予報もチェックしなくちゃ。
何ともいえない温もりと木の香り…秋田県大館の曲げわっぱは奈良時代からの歴史があるそう。 秋田杉の曲げ物にロクロの加工技術を取り入れた柴田慶信さんの作品は海外でも人気が高い。 この「つくし弁当入れ子」は、息子昌正さんが長女つくしちゃんのために考案されたオリジナル。 おかずとごはん2段で使えて、食べた後は1段分にしまえるすぐれもの。
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